Replay

東京の夜空には星が五つ。 流れてないのに流れた気がした。 眠れない眠れない夜。 真っ暗な部屋、凍りついた心。 浅い眠りの中で、ぐるぐると頭を駆け巡る表情。 表情。 3 2 1 ●Recording 空気が一変する。 張り詰め、瑞々しく、豊かなものになる。 視線、指…

星空を抱く

ねえたとえば、満月見遣るタイミング重なることを友情として。友愛、親愛、憧憬と、ふたりで独りの痛快と。そうそう今は偶然の交差の上に立っている。見えている。確かである。31字、未満の素朴な瞬間が光って私をあたためている。もどかしい。うまく言えな…

雨やどり

ミスドに行きたい気持ち 夜の時間を手のひらに溜めてる レイン・オン・ザ・ルーフ 屋根を打つ雨音を思い出す 早く夏の雨が来るといい 早く夏の蒸し暑い夜が来るといい 夏にしか聞かないと決めてるあの歌を早く聞きたい レイン・オン・ザ・ルーフ 雨の車の中…

循環の岸辺から

春だ。めくるページにできた日だまりには、明るい黄色のワンピースを着た、光の精が棲んでいるような気がする。予報によれば、今日からは、あまり気温が下がらないらしい。 冬を脱ぎ捨てて春に向かう時間の流れは、汗ばむくらいの陽気と、わたしをつめたく閉…

落下する街

夜。機内の照明がゆっくりと暗くなり、代わりに青色の照明がだんだんと灯っていった。窓際の間接照明のオレンジ色が、機体の内壁をぼんやりと照らしている。青色に照らされた機内は、なんだか近未来の乗り物みたいだ。まるで宇宙船に乗ってるよう。そういえ…

white out

世界が雪に沈められていくのを僕はただ見ていた。白くなった街で、人々はうまく時間の中を進むことができなくなる。最近は君のことをよく思い出します。何かを失うことなど少しも想像しなかった頃の君と僕の上に降り積もる雪です。いくつもの公園のベンチに…

#tanka(2020.04.17〜2022.01.14)

世界が止まっても生きてる僕 許し合い舐め合うことの虚しさを感じずに済む逢わなくていい ざあざあとからだを包む雨音も遠のきて夜、まぶたがおりる 赤い靴宵闇の底に沈みけり光なしにはみな同じ黒 天国も地獄も見たいこの街で マスクを下げれば夜薫る “でも…

そして人はどこかに還る

向こうでちらちら揺れてる光があるよ、無数の。水平線は霞む光の帯となってぼくの目に映る。東京の夜景を眼下に海のように見ていて、ひろいひろいなぁ、テールランプが泳いでいる。ぼくはこの都市のことを知ってるようで何も知らない。はるはるゆらゆら、ひ…

君のことを忘れてはいけない。 三日月が雫を落とすとき、銀色のそよ風が吹いて僕と君の隙間を通り抜ける。ひどく強い、決定的な豪雨が降りそうな、そんな曇った夜空だけが一年も二年も続いている。 白と金色の光の粒がちらちら泳いでは宵闇に消えて、静寂、…

炎天

草熱れの中を歩く。視界は青く茂る草木で埋め尽くされている。遠くから、一羽二羽の蝉の鳴き声が聞こえる。別の虫の声も聞こえる。虫の声はなんとなく夜中に聞くものだと思っていたのだが、日中も蝉以外の虫は鳴いているようだ。暑い。身につけた布がすべて…

依存症

音楽だけが、僕のことを殺し続けてくれる。鼓膜を叩くベースの低音が、僕の生を夜の表面に打ち付ける。ベースにギター、打ち込みのパーカッション、キーボード、ボーカル、コーラス、全く別の力に駆動されて蠢く全く違う音たちが、僕の耳に全部が全部一緒く…

0時。さっき二人で歩いた街路は、しっかりと雨に濡らされていて、でももう雨は降ってなかった。当たり前だけど、夕方には人出のあった街も、こんな時間になると誰もいないんだ。足音ひとつしない夜の商店街で、街灯の白い光だけがやけに煌々と灯っている。私…

移動

平日の昼間の山手線に乗ると、窓の外を流れていく東京の景色たち。差し込んだ西日が窓枠の形に切り取られて床の上に日なたを作るのを見ている。世の中というものはあまりにも複雑で、乗り換えの駅ではいつも目眩がしそうになる。けれど、電車の中から見る世…

私の眠れない夜が、誰かの眠れない夜に接続しないかな、とずっと一人で思い続けているけど、きっと繋がりはしない。たとえ接続したとしても、きっと私の輪郭も誰かの輪郭ももっと際立つ。混ざり合いはしない。どうやら私は、私の外側には出られないらしい。…

平衡

夜の中を走る電車の中を走りたい。駆け回って、飛び回って、みんなが僕のことを、頭のおかしい人だと思うだろう。でも君たちの方がおかしいって言いたい。だって窓の外には無数の明かりが凄いスピードで流れていってる。先頭車両の方を見れば、くねくねと線…

天国

君が出てくる夢を見た。けれどもう、何を話したのかも、どこにいたのかも覚えていない。ただ、とても穏やかであたたかな空気が私たちの間に流れていたということ、それはまるで、戦いの終わった後のような、すべてがゆるくほどかれていくような安堵に満ちて…

裏通りにて

愛してるという言葉はなんて軽薄なんだろうね。君の口からそんな言葉が出てくるなんて。君の睫毛は陽の光を受けてきらきらしていた、君は普段の君よりも少しだけ素直で、元気で、可愛らしかった。私は誰の幻影を君に重ねて見ているのでしょう。君の夢を見た…

青い薔薇

星を眺めるように、冷たい月を眺めてください。僕は隣りでただ、君の冷淡さだけを信じていたい。僕たちは決して砂漠の真ん中で美しく消えたりはできないこと、死んでも星にはなれないことを、痛いほどよくわかっている。私は確信している、君もそれがわかっ…

ほつれる

「お前の優しさは偽物だ」 と、誰かが私の頭の中で叫んでいて、私は今すぐヘッドホンを当ててうるさいロックでかき消したい。何が本当の優しさか分からないです。簡単に相手の気持ちを分かった気になるのは優しさではないのだろうし、私の頭の中で渦巻いてい…

夜間飛行

微炭酸、喉を通るときにじんわり熱く、感じているのは私だけ? 慣れない刺激は五割増、遠くにあるもの八割増、くそしょうもねぇ、くそしょうもねぇ全て、憎らしくて仕方ない、名前のないものは認めてくれない社会。高層ビル、最上階のベッドの上で眠るなら、…

傷跡

こんな寒い曇り空の夕方に、街に出かける時、私は何の曲を聞いたらいいのだろう。この、私の過去も未来も全てがどうでもいいような、でもいとしい人達だけはどうでもよくないような、そんな気分にしっくりくる曲ならもうずっと前から存在してない。どんな音…

洗濯物を干す人

季節の変化を、濡れた洗濯物を干す時と取り入れる時に感じるようになった。 週の半分以上の時間を、家に引きこもって過ごしている私は、昼前にのそのそと起き出し、部屋着のまま洗濯機を回してテレビを見ながら朝ごはん(昼ごはん?)を食べる。洗濯が終わった…

郷愁

私の生きている時間は今ここだけで、私の大好きな人達は確かに私の生きている時間の中にきらきら輝きながら現れるのに、君の生きている時間を私は決して知ることはできない。そちらは寒いですか。いかがお過ごしですか。君が今よりずっと小さかったときから…

21℃

秋はひとり。 日は既に短くなっている。夜になればしとしとと静かに雨が降り始める。虫は鳴きやまない。私のいないあの街で、あなたのいないあの公園で、今この時もあの時の私たち二人が、つまらない冗談に笑い合っているのかもしれないとふと思う。 文字に…

知らないの魔法

コンビニに買い物行ってくる。そう言って、家を出てきた。お母さんてば、口を開けばお父さんの悪口ばっかりなんだから。 家を出て真っ直ぐ歩いて、右にひとつ、左にふたつ曲がった角のところに、いつものようにその公園はある。小さすぎるその公園の、ペンキ…

新月の夜に。

夜の砂浜には、さざ波が打ち寄せ潮の匂いを運んでくる。新月の今夜、星は真っ黒な空いっぱいに瞬き、波は星あかりを受けてつやつや光る。足首を包む海水、きみのしずかな背中の後ろを歩く。わたしが歩む度、水がきらきら揺れて光るのはなんで。夜光虫だよ、…

猛暑日

重なり合う二匹の虫の音が。私はそれがスズムシなのかマツムシなのかまるで分からないけど、眠れない夜はお世話になってます。虫は何のために鳴いているのかもよく分からないけど、私はそれが立派な音楽だと思っている。道端の雑草の中から虫の音が聞こえる…

顔のない君

蒸し暑くずるずると長引く梅雨の夜に、開いた小説に、「冬の匂い」という文字を見つけて、でもそれが全くもって嗅覚に結びつかないので悲しくなる。 「おもては冬の匂いで、街の匂い」 冬の雑踏の匂いって、どんなだっけ。夜、街路は冷たい雨に濡れて光り、…

調和

雨上がりの渋谷の夜は、アスファルトが黒く濡れていて、街頭とネオンの色とりどりの光を溶かしこんでいる。 靴擦れの痛みを抱えたまま、ざくざく歩く。足先に落とした視線、隣からは小さな話し声と笑い声が聞こえる。 強く朗らかな態度でいることに、疲れ切…

境界

"触れ合いに逃避 するのは禁止" 電車の揺れる音に混ざって、イヤホンから流れてくる聞き慣れた曲の、聞き慣れたはずのフレーズが、ピリッとした刺すような痛みを心に残す。さっきまで居た部屋、煙草の香りを思い出す。 触れ合いに逃避、すれば、そこはかとな…