#tanka(2020.04.17〜2022.01.14)

 

 

世界が止まっても生きてる僕  

 

許し合い舐め合うことの虚しさを感じずに済む逢わなくていい

ざあざあとからだを包む雨音も遠のきて夜、まぶたがおりる 

赤い靴宵闇の底に沈みけり光なしにはみな同じ黒   

天国も地獄も見たいこの街で マスクを下げれば夜薫る 

 

 

“でも、たぶんいつかいなくなるよ”

 

六畳の夜にサイレン重なり合い パイプオルガンの聖歌と紛う 

何年か前の午後にも吸ったはず 今日とおんなじ秋の空気を 

夜バスの車窓を流れる知らぬ街見つめる君が映る窓ガラス 

ほんとうは捨てたくなかったものだけが降り積もる雪しんしんと冬 

薄情な人の別れの涙だけ 記憶の底でこんなにもきれい 

漠とした祈りを投げる夜の海真っ暗だけど落ちた音がする 

Ifだけが並ぶ背表紙なぞりつつ読まれぬ本がもつ美しさ 

淡雪が夜の水面に溶けてゆくように終わるだろう君と僕 

 

 

耳で世界を聴いてる

 

君の背を思い出す歌ひとつあり思いはいくつも混ざりてせまり 

右耳に宇多田ヒカルが棲んでいてさびしいときだけ目を覚まし歌う 

夜更けて「【立体音響!】波音」がつま先につくる波打ち際だ 

 

 

これはわたしに捧げるわたしの涙

 

思い出が優しくたしかに光るとき昔と今との遠さをおもう

春と紛う黄金(こがね)の夕陽の輝きは迷わず好きと言えた頃の輝き

悔しくて身体が崩れるようだからもう我儘をやめるのはやめる

 

 

天国大盛り2人前

 

お目当ての店が閉まっていたことをとうに通り過ぎてから言われる

なんか出汁の匂いがするからこの店に決める僕らは動物と思う

アスパラガス(さぬきのめざめ)の太いほう君にあげるとき湧いてる泉

寒いのに寒い秋なのに海想うわかめが海の味だったから

薄暗く雨に濡れてる深い森たたえる君の沈黙の視線

かき揚げの中のオクラに喜べる子がいて強く生きてる東京

三時までやってるマックに溢れてるここを自宅にしたい人たち

 

チョコパイはいつもこぼれる君の指僕の指からチョコを拭き取る

 

 

have a butterfly in my stomach

 

どうしても会いたい人のいることの花びら舞う夜の喉元苦し