Entries from 2020-07-01 to 1 month

顔のない君

蒸し暑くずるずると長引く梅雨の夜に、開いた小説に、「冬の匂い」という文字を見つけて、でもそれが全くもって嗅覚に結びつかないので悲しくなる。 「おもては冬の匂いで、街の匂い」 冬の雑踏の匂いって、どんなだっけ。夜、街路は冷たい雨に濡れて光り、…

調和

雨上がりの渋谷の夜は、アスファルトが黒く濡れていて、街頭とネオンの色とりどりの光を溶かしこんでいる。 靴擦れの痛みを抱えたまま、ざくざく歩く。足先に落とした視線、隣からは小さな話し声と笑い声が聞こえる。 強く朗らかな態度でいることに、疲れ切…