調和
雨上がりの渋谷の夜は、アスファルトが黒く濡れていて、街頭とネオンの色とりどりの光を溶かしこんでいる。
靴擦れの痛みを抱えたまま、ざくざく歩く。足先に落とした視線、隣からは小さな話し声と笑い声が聞こえる。
強く朗らかな態度でいることに、疲れ切っている自分がいて、そんなことをしなくたって一緒に居られる誰かの、囁くような話し声が、なぜか心の奥底に染みとおるのだ。
過不足のない時間だ。
こんなの初めて、と思うような、鮮烈すぎる幸福は、度を越した興奮と期待をもたらしそうでいつも怖い。それは一瞬だけ強烈に光って私を驚かせたら、あとは消えてなくなるような気がするから。
でも、きみたちとはなんだか、ずっと前から互いを知っていたように感じるよ。何を足し算するのも引き算するのも違うだろう、と信じられる、心地よさをありがとう。
ざくざくざく、猥雑な夜の東京も、趣味の悪い大きな広告看板も、今は好きだと言ったなら、普段の私は驚くだろうか。
一人になった帰り道は、夏の匂いがした。