Entries from 2021-01-01 to 1 year

そして人はどこかに還る

向こうでちらちら揺れてる光があるよ、無数の。水平線は霞む光の帯となってぼくの目に映る。東京の夜景を眼下に海のように見ていて、ひろいひろいなぁ、テールランプが泳いでいる。ぼくはこの都市のことを知ってるようで何も知らない。はるはるゆらゆら、ひ…

君のことを忘れてはいけない。 三日月が雫を落とすとき、銀色のそよ風が吹いて僕と君の隙間を通り抜ける。ひどく強い、決定的な豪雨が降りそうな、そんな曇った夜空だけが一年も二年も続いている。 白と金色の光の粒がちらちら泳いでは宵闇に消えて、静寂、…

炎天

草熱れの中を歩く。視界は青く茂る草木で埋め尽くされている。遠くから、一羽二羽の蝉の鳴き声が聞こえる。別の虫の声も聞こえる。虫の声はなんとなく夜中に聞くものだと思っていたのだが、日中も蝉以外の虫は鳴いているようだ。暑い。身につけた布がすべて…

依存症

音楽だけが、僕のことを殺し続けてくれる。鼓膜を叩くベースの低音が、僕の生を夜の表面に打ち付ける。ベースにギター、打ち込みのパーカッション、キーボード、ボーカル、コーラス、全く別の力に駆動されて蠢く全く違う音たちが、僕の耳に全部が全部一緒く…

0時。さっき二人で歩いた街路は、しっかりと雨に濡らされていて、でももう雨は降ってなかった。当たり前だけど、夕方には人出のあった街も、こんな時間になると誰もいないんだ。足音ひとつしない夜の商店街で、街灯の白い光だけがやけに煌々と灯っている。私…

移動

平日の昼間の山手線に乗ると、窓の外を流れていく東京の景色たち。差し込んだ西日が窓枠の形に切り取られて床の上に日なたを作るのを見ている。世の中というものはあまりにも複雑で、乗り換えの駅ではいつも目眩がしそうになる。けれど、電車の中から見る世…

私の眠れない夜が、誰かの眠れない夜に接続しないかな、とずっと一人で思い続けているけど、きっと繋がりはしない。たとえ接続したとしても、きっと私の輪郭も誰かの輪郭ももっと際立つ。混ざり合いはしない。どうやら私は、私の外側には出られないらしい。…

平衡

夜の中を走る電車の中を走りたい。駆け回って、飛び回って、みんなが僕のことを、頭のおかしい人だと思うだろう。でも君たちの方がおかしいって言いたい。だって窓の外には無数の明かりが凄いスピードで流れていってる。先頭車両の方を見れば、くねくねと線…

天国

君が出てくる夢を見た。けれどもう、何を話したのかも、どこにいたのかも覚えていない。ただ、とても穏やかであたたかな空気が私たちの間に流れていたということ、それはまるで、戦いの終わった後のような、すべてがゆるくほどかれていくような安堵に満ちて…