Entries from 2019-11-01 to 1 month

上野公園

灰色の低い空に押しつぶされそうな上野公園、赤や黄色や茶色の葉は冬の空気に包まれてぼやけてくすんでいる、桜の木だろうか、黒黒した枝を露わにしている。雨上がり、路上に取り残された水溜まりに頼りなく映る木立の残像、その上を肩をすくめ足早に通り過…

黒猫の詩

夜。 ゴールとかいうものを目指して一方向に行進する群れを抜け出して闇に向かって歩き出せば、首に冷たい風さえ今は嬉しい。向こうから電車が流れてくる、流れてゆく、オレンジ色の光の中に箱詰めされた人々、流れてゆく。夜を走る電車が好きだ、何にもない…

愛の詩

あなたの瞼にやわらかく注ぐ朝日になりたい。 あなたの舌を喜ばせお腹を満たす野菜に、果物に、甘味になりたい。 あなたの心にそっと寄り添う、薄紫の夕焼けになりたい。 あなたの部屋をあたたかく照らす、橙色の白熱灯の光になりたい。 あなたの疲れた身体…

いつかこぼれてゆくものたちへ

山手線、窓際に立つと、ビルの合間を縫って走る秋の陽光が時折私の片目に届いて、その度視界が黄金に鋭く染まってまぶしい。まだ正午過ぎだというのに、夕陽みたいな金色の光だ。11月の太陽は、いつだって夕陽みたいに優しくて切ない。 私たちはどうやら、手…

完璧な人へ

空を見上げる度、彼のことを思い出す。 彼は、まるで雲のようだ。遠く高く漂っていて、そうして空を漂うことの幸福にひとり満たされている。掴み所がなくて、ふわふわと幸福で。 どこにでもひょいと顔を出す。そんなところも雲みたいだ。この星のどこに居よ…

枝垂れ柳

十月の甘い夜風が、私の肌をかすめて過ぎてゆく。 耳には群衆の話し声に笑い声、鈴虫の鳴き声、そしてあなたの低い声。その底抜けに明るい笑顔と、広い背中と、筋肉質な腕と、日焼けた肌とに、くらくらしていた。あなたから香る正しくて健康的な匂いが、私を…

『光を盗んだのは』

唇を重ねる度、あなたの光を真っ黒に塗り潰している。 浮かべた微笑み、澄んだ声。閉じた瞼に白い首筋。 僕をからかうあなたの悪戯っぽい微笑みが、僕の鼓動を乱す。楽しそうに笑ったかと思えば、すぐに引き結ばれる薄い唇。目の前にあなたの瞳。その瞳が見…