黒猫の詩

夜。

ゴールとかいうものを目指して一方向に行進する群れを抜け出して闇に向かって歩き出せば、首に冷たい風さえ今は嬉しい。向こうから電車が流れてくる、流れてゆく、オレンジ色の光の中に箱詰めされた人々、流れてゆく。夜を走る電車が好きだ、何にもない田舎町の真っ暗闇を走り抜けるこの長い箱が、好きだ。私以外の誰かもいつか、そんなことを言っていた。闇に紛れる紅葉した葉が、私を見てる、じっと見てる。視線に気づいて、マスクの下で少し照れて笑う。靴底で薄ら氷が割れる音が綺麗で、耳を澄ます。私が踏むのは空気だ、夜の空気の上を歩いている、ひとり。ひとり。わたしはいまひとり、なんて幸せ。