アルペジオ

今日、ただの気まぐれで、一人で都庁展望室に登った。夜。都庁に登ったのは初めてだった。202mか、東京タワーより低いし、大したことないかなと思っていた。

202mは、高かった。そこから見る夜景は、横浜の観覧車から見るそれと同じか、もっと綺麗だった。眼下には、金色や白や赤や色とりどりの光が散りばめられていた。文字通り、散りばめられていた。凄く小さな宝石の入った宝箱をひっくり返したみたいだった。昔真下から見上げた東京タワーも、駒場や渋谷や色々なところから見えたドコモタワーも、おもちゃの街のパーツみたいに思える。水平線には無数の光が、行き場をなくしてちかちかきらきらと揺れていた。

この豆粒みたいな光の点一つ一つが、人々の生活なのである。ありきたりなことを想う。生活が、手前からずっと奥まで、無数に詰まったその景色を見下ろすのは、不思議な気分だった。東京は、広いんだなぁ。四方八方に広がる光の中心で、そう思った。地上を歩いている時には好きになれなかった四角いビルばかりの東京を、202mの高さから見下ろして少し、好きになれた。

「幾千万も灯る都市の明かりが
生み出す闇に隠れた
汚れた川と汚れた僕らと」

小沢健二の「アルペジオ」という曲の冒頭である。
都庁を出ると、道端に毛布にくるまったおじさんが二人いた。そういうことだな、と思った。
あのおじさん達は、都庁に登ったことがあるのだろうか。