霧雨の駒場

雨の駒場が好きだ。

 

駅の階段をおりて目の前にある木の、美しい流れる枝葉が雨粒を纏っている。

知らない間に咲いていた、珍しい花の形をした紫陽花は、ベリーのような色の花びらをしっとりと濡らしていた。

左に目をやれば、生い茂る背の低い木々の中に、一箇所だけ夕陽のような橙に染った葉が密集している。それぞれの葉の色は少しずつ異なっていて、私は真昼間なのにいつかの夕空を思い出す。

木立のあいだに、水分を含んだ冷たい空気が、霧のように漂っているのが見える。木々の奥から、何か神聖な動物でも出てきそうな、そんなピンと張り詰めた空気。ひんやり。

空を仰げば、いつもは日の光に当てられてその緑色を透かす葉達が、微かに煌めく雨粒をかろうじてつなぎ止めていた。

 

駅から食堂まで、徒歩二分。いや、一分か。その道程にいくつもの素晴らしい景色があることを、私は知っている。これだけは、ずっと私のもの。