二年半前の秋の日だったと思う。

初めて夜の東京タワーを見上げた時のことが忘れられない。

朱色にライトアップされた塔は、無機質な都会の一角で明らかに異質な空気を纏っていた。

その長い胴を見上げている時間、背後に走る車の出す騒音が消えた。聞こえなかった。ピンと張られた糸のような、静謐で少し張りつめて現実離れした、そんな空気が、時間が、流れていた。悲しくないのに泣いた。多分、美しさに引き出された涙。

あの夜のことは忘れられない。

今でも、夜の東京を歩いていて遠くの方にあるあの朱色と遭遇してしまうことがたまにある。その度に、えも言われぬ高揚感と感傷とをもって、あの朱色を眺める。