夏待ち

暖冬、ですね。

私の甘えや感傷を徹底的に殺してくれない半端な寒さなんて、憎いだけだ。

冷気が皮膚を刺す時、世界全部が自分の身体の外側に切り離されている気がする。ため息を吐けば、私と冬の境界が震えて白く染まる。抗えない寒さの中に一人でいる時、私は一番厳格な孤独の中にいるのだと感じる。冷たさは私の感情を殺す。心臓は氷の張った湖の底に沈められて、私は分厚い氷越しにもやもやと動く世界を見ている。

昼間差す光が、段々と優しくなっているような気がします。

まだ風は少し冷たくて、そのことは私を少しだけ安心させる。でもきっと、春はすぐそこまで来ている。生ぬるい優しさで満開の桜が微笑む。きっと夜風は私の肌を刺すことはしない。人肌みたいな温度の空気が私の肌を不気味なくらいにやわらかく包んで、寒さの中で息を潜めていた甘えや期待や感傷のすべてが、再び私を食い始めるだろう。

春のその先にあるもの、それが私は一番好きで一番怖いのです。

夏は、死の季節だ。狂ったように肌を焼く日差し、すべてを腐敗させる湿った熱気、享楽的、刹那的。花火を見る度、いつか粉々になって死ぬことを思う。私は熱に支配されて、理性は簡単に蒸発する。

夏に得たものは秋には失っている。鮮烈な生の余韻の中で、私は感傷にがんじがらめになって、身動きが取れないまま時間だけを食べてしまう。やがて冬が来れば、そんな感傷もすべて残らず殺されて、圧倒的な孤独に包まれる。

 

夏のために、生きている気がする。

私はあの暴力的で生々しくて死と隣り合わせにある季節を愛している。同時に、自分が自分でなくなるような予感を少し恐れてもいる。

こんな陽気の日には、春の訪れ、そしてその先にある夏の横顔さえ垣間見るような気がしますね。今年もまた、破壊的な夏を待ちながら、生きる次第です。