解剖学

浮き足立った気持ちなんていうのは、結局のところ自分大好きってちょっとでも思えるから生まれるんだ。ちょっと謎めいてて一匹狼の君が、私にだけは猫みたいに甘えてくれるのがくすぐったくて嬉しいのも、"私にだけ"だからだ。「こんな話、あなたにしか出来ない」「あなたといると、落ち着く」「あなたの前では素の自分で居られる」、もっと頂戴、もっともっと。私の欠けたとこだらけの自意識に、七月の雨のように活き活きと水を注いで。私は誰よりずる賢くって、誰より卑怯で、誰より悪い奴。「みんな凄い!」は、「私ってほんとに駄目だ」の裏返しで、人といると自分の嫌なところばかり目についちゃうんだ、他人はいつだって眩しくて。そんな私を、「なにか特別にちょっとだけ良い存在」のように錯覚させてくれるから、君は神様。作り笑いに表面だけの優しい言葉を並べる軽薄な私も、ほんとはあなたの感情の機微をちゃんとキャッチできるくらいに繊細なのかもって思えるんだ。私は君の憂鬱そうな横顔が大好きなんじゃない、君の眠れない夜が大好きなんじゃない。アンニュイな君が特別に選んでくれた私、が大好きなだけ。だから君が誰か他のひとに同じことを言ってても、嫉妬はしないわ。ただ、つまらないと思うだけ。興醒めだ、って思うだけ。本気で「あなただけが特別」って思ってくれない君なんて、やくたたず。嘘の「特別」で、私は自分大好き!とは思えないから。こんなに醜い私ですが、他人の好意を自己愛強化のために必死で消費してるんだ、って、自分の醜さ分かってるから幻滅も自己嫌悪もしない。皆自分のことが大嫌いで、でもそんな自分をちょっと特別にしてくれる人のことは、大好物なんだ。