思い切り幸福な記事を書きたくて。

確かに手触りがあるということ。

 

何気なく見上げた空にうっすらと綿菓子を引き伸ばしたような秋の雲がかかっていること。

冷たい水を飲み干すとき、身体の隅々が澄み渡っていくような気がする。

教室の窓の外に、秋の陽光に触れてやわらかく煌めく緑が生い茂っていること。

購買の店員さんにありがとうございますと少しだけ大きな声で言ってみたら、微笑まれたような気がした。

夕方になったら風が少しだけ涼しかった。

銀杏並木を軽く目を伏せ歩いたら、鈴虫の鳴き声が耳に嬉しい。その中にたまに、違う鳴き声が微かに混ざっていること。そして私の耳はちゃんとそれを、見つけてあげられるということ。

銀杏の匂いが去年は憎かったのに、今年は一周まわって香ばしく生命を主張している匂いだななんて思えてしまうこと。

まだ少しだけ明るい、藍色の空を遮る木々の葉がいとおしい。

れんこん。人参。ごぼう。里芋。あたたかい豚汁を飲み干したら、お腹の中から優しくなった。

目の前に笑顔があること。声が、気持ちを零さずに届けてくれること。

 

確かに手触りがあるということ、それは、私を毎日この地上につなぎ止めてくれるきらきらの糸。