少し遅めの、梅雨が明けない。

 

七月に入って一度も晴れの日が無かったことを友達から伝え聞いて、あぁ、これが梅雨なのか、と他人事のように思った。そういえば、最後に青く高い空を見たのは随分昔のような気がする。明日から梅雨入りだとニュースで見て、晴れの日納めをしようと、食堂のテラスに一人で向かった日。六月の陽気とそよ風の中で、うたた寝をしたっけ。

あの日は、梅雨なんて来なくていいと思ってた。じめじめするし、靴は濡れるし、心が晴れないし。多分毎年六月には、雨を忌み嫌ってた。

今年は少し違う。 

傘を打つ雨の音。水たまりが映す新緑。きらきら光る露をとどめる葉。雨粒を受ける紫陽花。窓の外からは地面を打つ雨音が聞こえる。しとしと、ぽちゃん。夜の路面には鏡が張られ、粉雪のような霧雨が肌をしっとりと濡らしてとけてゆく。

雨の日が嫌いだった自分がいつの間にか消えていることに、私は気づいた。水が世界を美しくすることがある。傘を差して一人、水たまりを避けながら歩く、あの少し孤独な時間が好きだ。雨音を聞きながら眠りに落ちることも。

あと一週間らしい。毎日毎日、世界が灰色にぼやけて、皆が少し塞ぎ込んだような気持ちで街を歩く、静かで湿やかな時間が終わるまで。 

 

少し遅めの、梅雨が明ける。