三年前の、私へ。

寂しいんだよね、最近。

 

何を聞いても、何を見ても満たされないんだ。

 

過去の思い出を振り返ると暖かい懐かしさよりも先に、息切れがする。いくら手を伸ばそうとも、絶対に届かない。記憶はとても素敵な色を纏って煌めいている。あと少しで触れられそうなくらい、その時の感情も風景もリアルに思い出せるのに、絶対に掴めない。指のあいだをすり抜けて遠くへ遠くへ、漂ってゆく。

ひとつの感情に身体ごと支配されて、ひとつのものを追いかけて。追おうとしているそれが幻かどうかなんて疑いもしない。そんな真っ直ぐさは、もう来ないと思うんだ。何かひとつのものを信じたり、誰かひとりを心が擦り切れそうなぐらい愛したりなんて。もう出来ないよ。

歳をとるということはそういうことなんでしょうか。記憶の表面に手触りを感じることが出来なくなることなのでしょうか。「若かった」と、「青かった」と、あなたを見てそう言うことしか、今の私には出来ないのです。

あなたと私は、何かが決定的に違う。三年の時が、何かを変えてしまった。

 

いつかの夜を思い出す。

帰り道、あなたは涙を止められなかった。あなたはこう言った。

「今の私のこの苦しみも悲しみも、全ての感情がいつかは忘れ去られてしまうのかな。時間に風化させられて、上書き保存されて。そんなの絶対嫌だ。変わりたくない。」

ごめんなさい。

私もね、あなたを忘れたくなかったんだ。ずっとずっと、側に置いておきたかった。でも、時間があなたと私を隔ててしまったみたいです。

 

あなたは、眩しい。まっすぐで、ひたむきで、必死で。笑ったり、泣いたり、愛したり、悩んだり、死にたくなったり。

私はあなたを前にして、目を細めてあなたを見つめる。

もう二度と来ない輝き。色とりどりの光。

 

私、「おとな」になっちゃったのかもしれない。

ごめんね。

 

 

19歳と11ヶ月の、私より。