名前はつけずに

美しい言葉が紡がれる。

それは彼の口から、彼の指先から、彼の瞳から。

真夜のやわらかい月明かりのような、

とめどなく流れる滑らかな水のような、

春の昼下がりのあたたかい陽の光のような、

言葉たち。

私は、彼に恋をしているのでしょうか?

それとも、彼の紡ぐ言葉に恋しているのでしょうか?

私の心は貪欲に彼の紡いだ言葉を求め、時間をかけてそれを味わい 、彼の夕陽のような瞳を、ガラスのような指先をうっとりと見つめます。

これは恋なのか、愛なのか、憧憬なのか分かりません。

そこにはただ、美しいものに触れたいという心があるのみです。

人はこれを何と呼ぶのでしょう。

分からぬまま私は今日も、彼が作り出す言葉の海に埋もれます。