束の間の夢

紅い提灯が列をなす。

 

通りには人、人、人。すれ違う人の肌が生暖かく湿っていて不快。いつもはさびれた商店街、色と人に溢れるのは、夏のこの夜だけ。

 

スピーカーから割れた炭坑節が流れる。提灯の紅色に、白い照明の光、ヨーヨーのピンクに、緑に、青色に、りんご飴の赤に、目眩がしそう。

笑い声と話し声が耳に嫌にまとわりつく。

化粧が崩れて頬のてかった女が目の前でべたりと男の腕にしがみついた。卑しく笑いながら。道端にはプラスチックの容器とチューハイの空き缶が転がり、段差には座り込む男達。

 

鼻から息を目一杯吸い込む。煙の匂いに、湿った匂い。

 

通りに溢れていた人はふいと空を見上げ、甲高い叫び声があちこちで上がる。

 

心に反して火照った肌を水滴が打つ。

 

先刻まで人で埋め尽くされていた通りからは人々が小走りで店先に逃げていく。

 

開けた通りをずんずん歩く。歩く度に靴が水音を立てる。水は物凄い勢いで地面に注ぐ。

濡れたアスファルトが提灯を反射してどこまでも紅い。肌はすっかり冷たい。私の心は熱い。天を仰ぎ、頬いっぱいに雫を受けた。無理にあげた口角の先が少ししょっぱい。

 

いつまでも止まなければいい。

零れた酒も道端で息絶えた金魚も、胸にこびりついたまんまのあいつもあいつの笑顔も耳から離れない笑い声も匂いもわたしも、流し去って