Entries from 2019-01-01 to 1 year

まなつのよるの

夏の夜の風は甘い。 網戸を通り越して肌を撫でる。 夢を見ているのかしらと思って飲み込んだ水が胃に冷たくて、はっとして。

記憶

夏 という字を見る度、思い出す。 眩暈のする日差し、わたがしのような入道雲、ひぐらしの鳴き声は東京では全然聞こえない、ガリガリ君の棒の木の味、校庭の砂埃、冷えすぎた教室、君の額の汗、生ぬるい夕暮れの風、花火に行こうと約束する時の高揚感、咲い…

束の間の夢

紅い提灯が列をなす。 通りには人、人、人。すれ違う人の肌が生暖かく湿っていて不快。いつもはさびれた商店街、色と人に溢れるのは、夏のこの夜だけ。 スピーカーから割れた炭坑節が流れる。提灯の紅色に、白い照明の光、ヨーヨーのピンクに、緑に、青色に…

散文

見上げても星の見えない東京 夜、ひとりで揺られる電車 低いマンションの並ぶ住宅街 眼下をゆっくり流れる窓の灯り 地上の星 東京も悪くないよ

二年半前の秋の日だったと思う。 初めて夜の東京タワーを見上げた時のことが忘れられない。 朱色にライトアップされた塔は、無機質な都会の一角で明らかに異質な空気を纏っていた。 その長い胴を見上げている時間、背後に走る車の出す騒音が消えた。聞こえな…

よる

静かにしかし確実に夜に侵入してくるそこはかとない寂しさに抵抗する術などなく ただ道端に咲き乱れる紫陽花が青から紫へと変わっていくのを見ることしか出来ない

写真機

少し前の私にとってカメラは、すがりつく対象だった。 胸の中にあるもやもやとした気持ちを、言語化できない、するのも煩わしい。なるべく触れたくない。気持ちを直視したくない。 自分の内面に対峙し思考することを放棄してしまいたいぐらい余裕のない時、…

大人になれば

何のために生きているのか、わからなくなる夜がたまにある。 一ヶ月にいっぺんぐらい。 そういう時、私は高いところばかり見つめている、大抵。何かを成さねばならないとか、何か素敵なものを手に入れねばならないとか、凄い人にならなきゃいけないとか。 母…

二年越しの旅行記

高校三年生の夏休み、受験勉強真っ只中。スタディプラスをインストールし「質より量!」の勉強の沼にはまり、毎日勉強していた。ある日母に、「勉強ばかりじゃしんどいだろうから、熱海に一泊旅行でも行こうか」と提案され、夏休み終盤、家族で熱海旅行に出…

アルペジオ

今日、ただの気まぐれで、一人で都庁展望室に登った。夜。都庁に登ったのは初めてだった。202mか、東京タワーより低いし、大したことないかなと思っていた。202mは、高かった。そこから見る夜景は、横浜の観覧車から見るそれと同じか、もっと綺麗だった。眼…

残り香

宇多田ヒカルの「残り香」という曲の一節が凄く好きだ。「証明されていないものでも 信じてみようと思ったのは 知らない街の小さな夜が終わる頃」 最近の私の問いは専ら、「理性に生きるか、感情に生きるか」である。「現実に生きるか、夢に生きるか」と言い…

薔薇

スマホを見ながら駅のホームを歩いていた時、唐突に視界に入ってきた、地面に打ち捨てられた一輪の赤い薔薇を今でも時々思い出す。 どんな人がどんな人に贈ろうとしたのだろう。それとも、自分のためだけに買ったのだろうか。あの薔薇は、きっとぐしゃぐしゃ…