愛の狭間

「愛してるよ」 私の耳元で、泣きそうな声であなたが囁いた言葉に、後ろめたい気持ちになるのは何故でしょうか。私もあなたが好きで、あなたとこうすることが好きで、あなたの首の匂いが好きなのに。 「うん。私も」 すぐにこう返せなかったのは、あなたが私…

冬晴れ

全てが白く冷たく固い。 教室の後ろ、窓側の席で開いた詩集のページの上に、窓から差す冬のかすかな光が落ちて広がる。刻まれた文字が、細かく震えている。ペットボトルの中の水を通った光が、白い机の上に落ちて揺れる。照明を落とした教室で、いっそう、冬…

断末魔

イヤホンから流れるドラムが鼓膜を叩く なりを潜めたロマンチシズム 沈めてなだめて見ない振り 感傷のにおいが薫って殺して引き裂いて ぬるま湯はずっと幸福だと信じる悪足掻き 時間が直線でも円環でも私は此処には居ない 赤い血赤い肉白い肌辛うじて繋ぎ止…

無題

真夜中、人恋しさ、空腹、冷たい足、煌々と光る液晶、冷蔵庫が立てる低い機械音、秒針の音、絡まったイヤホン、誰か、誰かの声が、聞きたい、

Untitled

今年が終わっても私は終わらないし、新年が来たって私は新しくなんてならない。 十二月も気づけば下旬に差し掛かっていた。日曜日、東京は今週で一番の冷え込みらしい。天気予報を確認する習慣は、少し前まではあった。降水確率100パーセント。事後的に知る…

フィクション

私、八方美人なんです。 目の前の人が切実な目で欲している言葉はすぐに判ってしまうし、あなたのお望み通りに振舞っていれば、あなたは私に依存して、私の元から去らないでいてくれるもの。 だから、あなたがショートヘアの女の子が好きだなんて何ともなし…

夢日記

眠っているとき見る夢は、滅茶苦茶だ。整合性のある夢を見たことなど、ない。ずっと覚えていたら支離滅裂な夢が現実を侵食してしまって危ないから、目が覚めたらすぐ忘れてしまうように出来てるのかしら。眠りと覚醒の狭間を漂う時には確かに生きていた夢が…

ドライアイスの詩

ねぇ私たち、始めようよ 始めたらきっと終わりだから 頭の芯まで蜜に浸して 耳を劈く振動と 冷たいほどに熱い肌の隙間 森を駆け抜ける 轟音が鳴り止んだら 無彩色の世界を持て余す 絶望を生きよう、さようなら

上野公園

灰色の低い空に押しつぶされそうな上野公園、赤や黄色や茶色の葉は冬の空気に包まれてぼやけてくすんでいる、桜の木だろうか、黒黒した枝を露わにしている。雨上がり、路上に取り残された水溜まりに頼りなく映る木立の残像、その上を肩をすくめ足早に通り過…

黒猫の詩

夜。 ゴールとかいうものを目指して一方向に行進する群れを抜け出して闇に向かって歩き出せば、首に冷たい風さえ今は嬉しい。向こうから電車が流れてくる、流れてゆく、オレンジ色の光の中に箱詰めされた人々、流れてゆく。夜を走る電車が好きだ、何にもない…

愛の詩

あなたの瞼にやわらかく注ぐ朝日になりたい。 あなたの舌を喜ばせお腹を満たす野菜に、果物に、甘味になりたい。 あなたの心にそっと寄り添う、薄紫の夕焼けになりたい。 あなたの部屋をあたたかく照らす、橙色の白熱灯の光になりたい。 あなたの疲れた身体…

いつかこぼれてゆくものたちへ

山手線、窓際に立つと、ビルの合間を縫って走る秋の陽光が時折私の片目に届いて、その度視界が黄金に鋭く染まってまぶしい。まだ正午過ぎだというのに、夕陽みたいな金色の光だ。11月の太陽は、いつだって夕陽みたいに優しくて切ない。 私たちはどうやら、手…

完璧な人へ

空を見上げる度、彼のことを思い出す。 彼は、まるで雲のようだ。遠く高く漂っていて、そうして空を漂うことの幸福にひとり満たされている。掴み所がなくて、ふわふわと幸福で。 どこにでもひょいと顔を出す。そんなところも雲みたいだ。この星のどこに居よ…

枝垂れ柳

十月の甘い夜風が、私の肌をかすめて過ぎてゆく。 耳には群衆の話し声に笑い声、鈴虫の鳴き声、そしてあなたの低い声。その底抜けに明るい笑顔と、広い背中と、筋肉質な腕と、日焼けた肌とに、くらくらしていた。あなたから香る正しくて健康的な匂いが、私を…

『光を盗んだのは』

唇を重ねる度、あなたの光を真っ黒に塗り潰している。 浮かべた微笑み、澄んだ声。閉じた瞼に白い首筋。 僕をからかうあなたの悪戯っぽい微笑みが、僕の鼓動を乱す。楽しそうに笑ったかと思えば、すぐに引き結ばれる薄い唇。目の前にあなたの瞳。その瞳が見…

『明けない夜は、なかった』

ある夏休みの朝、目を覚ましたら、部屋の中はまだ暗かった。また変な時間に起きたのかなと思いスマホを点けると、液晶には「9:30」という数字が表示された。カーテンを開けると、窓の外は真っ暗闇だった。 太陽が昇らなくなってから一週間が経った。世界は、…

もう19歳ではない私が19歳展で考えたこと

もう19歳ではない私が19歳展で考えたこと。 知人の言葉をもとに手繰り寄せたことばの記録。 ──────────────────── 未来永劫この幸福な時が続いていくのだ、という、根拠の無い予感。 確かに触れている、手触りが、私を永遠の一瞬に閉じ込める。 おかしいな、…

先日知人が携わっている展覧会にて、過去に撮った写真や書いた言葉をそのままに展示してあるものを見た。彼女によって綴られた言葉の間をふわふわと漂っているうちに、過去の私がひょいと顔を出した。私が自覚的に物を書くようになったのはここ半年のことで…

日々の果て

「私は、どこへ向かってゆくのでしょうか。」 両手のひらに感じるのは生きた水だ。水はうねりながら私を運ぶ。どこへ運ばれているのかは分からない。水面に仰向けになった私の肌には、優しい日が降り注ぐ。あたたかい。私はもうこれから先ずっと、永遠に、こ…

読まれなかった恋文

十一月。憎いくらいに十一月だ。風は冷たくて、でもまだ私の肌を刺すことはしないでいる。半端な優しさ。透明で冴えた空気が肌に触れたら、私は私のからだも全部透明になって消えてしまうような気がして、服の袖を伸ばして指先を隠す。呼吸する度透明が肺に…

秋の夜長に

全てがいつか終わること。全ての関係性が、いつか何らかの形で別れを迎えるのだということ。だからこそ、今この時がかけがえがなく輝く、なんてことは分かってる。分かってるけど、怖いね。笑い声を、体温を、失いたくない。今年はやけに、鈴虫の声が聞こえ…

私の夜

私の知らない夜を想う。 騒々しいネオンサインで溢れかえる新宿駅東口。皆が皆知らないふりしてすれ違うスクランブル交差点。朱色の光に包まれて立つ東京タワー。恋人たちが囁き合うスカイツリーのてっぺん。道端のホームレスのうたた寝の中の夢。誰も居ない…

思い切り幸福な記事を書きたくて。

確かに手触りがあるということ。 何気なく見上げた空にうっすらと綿菓子を引き伸ばしたような秋の雲がかかっていること。 冷たい水を飲み干すとき、身体の隅々が澄み渡っていくような気がする。 教室の窓の外に、秋の陽光に触れてやわらかく煌めく緑が生い茂…

ふかまる秋と

私、一人で幸せになりたかった。 誰にも寄りかかることなく、一人で考えて、感じて、楽しんで、色々なことに関心を持って。悲しいのも寂しいのも楽しいのも全部自分一人で引き受けて、自分一人で自分の世話をしたい。「あなたが居ないと生きていけない」なん…

九月某日、山梨県にて。

河口湖近くでBBQをした後、小雨の降る中、山梨県上野原市の山間部にある秋山温泉へ。少しだけ肌寒く秋の訪れを感じる。あついお湯に体を沈める瞬間の幸福。今年も温泉の季節がやってきました。 露天風呂の扉を開けた途端に鈴虫の声が耳に飛び込む。少しだけ…

うしなう

熱帯夜が終わった。 少しだけ開けた窓から入るのはもう熱気ではなくて、代わりに静かな虫の音が夜の部屋に侵入してくる。この鳴き声がなんて名前の虫なのか全然わからないけど、もう夏じゃないんだってことだけは分かる。ふしぎ。 冷房を入れては寒くなって…

Lost in Paris

異なる宗教と出会う時の、あの歯がゆさは一体何なのだろうか。 荘厳な空気に満たされた教会。ステンドグラス越しに入る色とりどりの光。ドームの天井に描かれた天使と女神と。教会の中心には、説法をするためなのだろうか、金色の台が据えられている。"only …

京都旅行記

およそ1週間前の8月7日、私は単身京都へ発った。兵庫への帰省に伴い、家族より一足先に関西へ向かい、滋賀の親戚の家を拠点に京都観光をしようというわけだった。 私は今までに、中高の修学旅行で二回京都に行ったことがある。もう一度京都を選んだのは、こ…

三年前の、私へ。

寂しいんだよね、最近。 何を聞いても、何を見ても満たされないんだ。 過去の思い出を振り返ると暖かい懐かしさよりも先に、息切れがする。いくら手を伸ばそうとも、絶対に届かない。記憶はとても素敵な色を纏って煌めいている。あと少しで触れられそうなく…

少し遅めの、梅雨が明けない。 七月に入って一度も晴れの日が無かったことを友達から伝え聞いて、あぁ、これが梅雨なのか、と他人事のように思った。そういえば、最後に青く高い空を見たのは随分昔のような気がする。明日から梅雨入りだとニュースで見て、晴…